ギャンブルは科学を救えるのか

この疑問は、アメリカの経済学者であるロビン・ハンソン氏の1995年の論文タイトルにもなっています。ハンソン氏は、従来の査読プロセスを市場ベースのプロセスに置き換えるよう提案しました。これが実現すれば、どの研究に資金が投入されるか、どの科学事項に関心が集まるかは、査読プロセスではなく「賭け」によって決定されるようになるかもしれません。このような「予測市場」では、個人は特定の出来事や事象に対して賭けをしているようなものです。予測市場は参加者の知識をベースとしているため、市場参加者が多ければ多いほど、より正確な予測が得られます。 

従って、「群知能が予測市場に作用を及ぼす」ということが言えます。これは、スポーツの賭けや選挙予測においても証明されています。しかし、科学分野ではどうでしょうか。実は驚くべきことに、科学分野にはこの原理が当てはまりません。しかし、予測市場は様々な科学分野に適用されています。では、どのような形で適用されているのでしょう。そして、どのような利点が得られるのでしょう。

「賭け」はなぜ、調査や査読よりも正確に予測されるのでしょうか。これは、特に目新しい概念ではありません。スポーツの賭けや選挙結果からも分かるように、「賭け」は驚くほど正確に予測されます。その正確性は、大体いつも世論調査の予測結果を上回っています。

その理由のひとつとして、「調査目的に取り組むモチベーションが、賞金によって上がるから」というものがあるでしょう。では、科学ベースの予測市場調査と同様に、実際のお金を賭けないただの「ゲーム市場」であればどうでしょうか。

ドイツでは違法ギャンブルとみなされるため、実際にお金を賭けることは出来ません。また、別の問題として、予測市場ではチップの売買で賭けの期間を長引かせることが出来るため、他の参加者の売買によって変化していく流れを確認しながら候補者を入れ替えることが出来ます。そのため、より重要なのは知識や見解が異なる大勢の人々が同じ問題に取り組むことで発生する「群知能」にあるのではないかと考えられます。

しかし、全てはゲームと同じなのでしょうか?予測市場は、科学システムにとって重要なのでしょうか?予測市場の欠点は、「2つのカテゴリーに分けられる問題しか解決できない」ということです。研究の再現は可能なのか、特定結果は正しいのか、それとも正しくないのか、特定問題を調査する必要があるか、アプリケーションに投資する価値はあるのか?などなど、予測市場には裏付けがないため、結果は全て賭けとなります。以下の心理学分野における例は、研究分野において予測市場がシンプルかつ正確だと思われる同意をどのように形成するのかを示しています。

研究資金提供者は、優先する研究プログラムを決定するため、予測市場を利用することがあります。その決定内容は、地域社会や患者などの利害関係者にも知らされます。「ある化学物質が、モデルシステムでは有効だったが、高価で、しかも有害である可能性もある。実際に臨床開発するのか?」といったジレンマは、探索医療分野では常に生じます。予測市場は、科学界が新薬候補を選ぶ際のシンプルな方法になっていくでしょう。