ユーザーの目で操作するパソコン

佐賀大学理工学部の新井康平教授は、パソコン画面上のキーボードを見つめるだけで文字入力が可能になるシステムを開発しました。ユーザーが文字を1秒間見つめると、システムが視線を認識します。そして小型カメラを活用し、対応文字を挿入するのです。この技術は、日本語で「見つめるだけ」と呼ばれています。新井教授は、この技術は障がい者だけでなく、医療や福祉分野にも応用できると考えています。多くの障がい者は現在、高価な専用機器がないとコンピューターを使えない状況にあるからです。

ユーザーの視線を読む

新井教授のシステムでは、コンピューターに接続された小型カメラが、目頭、額の内端、瞳孔中心と、片目につき3か所の位置を記録します。両目で6カ所の位置情報をもとに、顔を向けた方向を特定し、視線を追うことで画面のどこを見ているかを正確に検出するのです。このシステムは、メガネをかけていても利用できるということです。

システム開発の初期段階では、目尻と眉毛の位置を利用していました。しかし、脳性麻痺のように顔が動き続けるユーザーの場合、顔を横向きにしてもカメラは位置が確定できませんでした。そこで目頭と眉間を座標にしてみたところ、システム精度が一気に上がりました。新井康平教授によると、この技術によって、画面上のキーボード文字から30cm離れた場所で文字を2.5cm離して入力するといった精度の高い文字入力も可能になったそうです。

低コスト&高性能

新井教授がこの技術を開発したきっかけは、5年前に脳性まひの学生が入学してきたことでした。学生のためにトイレやスロープは整備されましたが、パソコン操作は学生の母親が行っていました。「それを見て何とかしなければと思った」と新井教授は言います。

それまでの障がい者用入力装置といえば、赤外線カメラ搭載の特殊ゴーグルを装着して網膜上の画像を解析したり、顔に電極を接続し、眼球の動きを検出するといったものでした。コストがかかる上に、不便なシステムだったのです。新井教授のソフトウェアは無料提供されているため、システム費用はわずか3,000円ほどで済みます。寝たきりで手が不自由な方も、このシステムがあれば「看護師を呼んでほしい」「喉が渇いた」といった要求を伝えることが出来ます。

この装置は、研究者や企業が、高齢者や障がい者の方の生活向上のために技術活用した例のひとつです。新井教授のような存在のおかげで、私たちの生活はどんどん改善されています。